院長の独り言
Monologue

2011.5.25

出雲文化に学ぶ

私は島根県石見部の生まれですが15歳から松江の高校に行って以来、主に出雲での生活が長くなってきました。特に12年前に斐川の地に開業してからは患者さんや出雲ロータリークラブの仲間など出雲部の人々との付き合いが大半です。その付き合いの中で多くのことを学びました。その中で現状維持を大切にする出雲文化の良さが最近分かるようになってきました。
 出雲人は弥生の頃から地域や家を守って来て、発展させて大変な成功を得るよりも現在の豊かさを保って行ければ良しとします。一見するとつまらない考えの様に思えますが、実はそうではなく長い歴史の中で長く繁栄するには少しづつの改善は望ましいが、博打的に勝負して成功しても次の勝負で確率的に負ける可能性が高いことを知っているのです。町が急速に発展することはありませんが、急速に衰えることもありません。自分一代だけでだけでなく何代にも渡る家や地域の発展を考えた素晴らしい危機管理なのです。
 本日、膝や腰の痛みがあって漢方治療と鍼治療の為に度々通院してこられるおじいさんが 「ある程度痛みが良くなってこれ以上ひどくならないから嬉しいですわ」 と言われました。私にも大変嬉しい言葉でした。同じくらい治しても完全に治ってないことを不満に思う患者さんも時にはいますが、老化現象で体が傷害されている場合はある程度治癒してもそれ以上はどうしようもないことがあります。このおじいさんの様な考えが出来れば医者もやる気がでるし、何より本人が幸せです。
 人間は努力して良い結果を得られる確率は、平均でならすとそんなに変わりはありません。人によって異なるのは結果に対する満足度や考え方です。どんどん上り調子で出世して目標まで行けなくても、現在までの成功に対して応援してくれた人々に感謝して、幸せを感じることが大切です。その相互扶助のシステムが出雲にはあります。自分だけ得をしようとする人を軽蔑して排除する文化があります。若い頃はそのことが分かりませんでしたが、最近になってこのような出雲の良さが理解できるようになってきました。
 これは本来の日本人が持っている深層心理であるように思います。東京で便利な生活をしていた人々も、今回の震災で節電などの不自由な生活を強いられたり、東北の人たちの頑張りや福島原発で必死に国を守っている人々を見て、このような日本の良さが少し理解出来たかもしれませんね。日本人は国際的に商売が下手だと言われて、韓国のサムソンに多くの国で競り負けしているのは日本人の根っこにこのような性質があるからではないでしょうか。日本は世界の人々に認められる商品を作るために、地道に技術開発を常に行って国際競争力をつけていくしかないように思います。震災を切っ掛けにきっと新しい技術やシステムを開発して、効率が良くて安全なエネルギーの供給が出来るようになるでしょう。
 人は一人では生きていけません。多くの人々が相互に扶助しながら、みんなで少しづつ生活レベルを改善してきているのです。そのことに気がついた時に人は今までにない幸福感を味わうことができます。今の生活がまずまずのものであれば、それをもたらしてくれている全てに感謝して、出雲流に長く現状を維持する努力を続けてみませんか。私はこのことに気がついてかなり気が楽になりました。