院長の独り言
Monologue

2010.1.31

やさしい目で見る

皆さんは奇跡のりんごとの話を聞いたことがありますか。私は1年前にこの話を知りました。となりの薬局の先生が私に一生懸命にその本の感動を伝えてくれたので、内容ははっきりと分かりませんでしたが書店ですぐに買って読みました。プロフェショナルというNHKの番組でも取り上げられているので山積になっていました。
 それは青森のりんご農家の次男と生まれた木村秋則さんが、無農薬のりんごを作る壮絶な人生が語られていました。私も知らなかったのですが、りんごを無農薬で作ることはほとんど不可能に近いと世界的にも言われているそうです。そのことに挑戦した木村さんは、なかなか出来ずにお金も尽きてしまい、子供の学校の文房具も買えず、地域の人には変わり者として村八分にされたりしました。それでも諦めずに生活費を稼ぐためにキャバレーの呼び込みをしてやくざに絡まれて歯を折ったり、私たちではとても耐えることが出来ないような生活を送りながら頑張って来ましたが、ついに力尽きて山の中で自殺を考えました。山の中でまさに首を吊ろうと思った時に、ぼうぼうの草の中に勢いよく育っているりんごの木を見つけました。今までリンゴの木の周りの雑草を取り除くことばかり考えていた自分の誤りに気がつきました。山から下りてそれから雑草を生かしたままのりんご作りに挑戦して、ついに8年かかって無農薬のりんご作りに成功した話です。
 この話は有名なのでご存知の方も多く、すごいなと誰しもが思うのですが、私は無農薬のりんご作りに成功したその後の木村さんはもっと凄いと思いました。普通は年数もお金もかかっているりんごなので、プレミアをつけて高く売るところですが、普通のりんごと何ら変わらぬ値段で売り、しかもせっかくつかんだノウハウを惜しげもなく、全国に広めて歩いています。この本を読んで涙が止まりませんでした。絶対に私には木村さんのような事は出来ないと思ったし、今の時代にこのような人が日本にいることが日本人として誇りを持てます。全国で無農薬のりんご作りを教えているのですが、いくら教えても中々普通の人には出来ないようです。
 なぜか、「りんごをやさしい目で見ることが大切で、そうすればりんご作りで大事なことが良く見えるようになる」と木村さんが言うように普通の人はりんごを作ろう作ろうと考えるあまりに、りんごにとって何が思いやりがあるのか考えないからなのです。大切なことはいかにりんごをやさしく見守るかであるのだそうです。農薬を使わない限りは一本一本のりんごの木の個性を見極め、水やりも散水機ではなく手作業で個別の条件で行うなど、一つ一つのりんごに愛情を持つことのようです。  
 現代の文明社会で生きている我々はいつの日かデジタル社会の波に呑まれて、一人一人の個性を失って来ていませんか。苦しいと思って少し頑張って見てもう駄目だとすぐに諦めませんか。子供の教育でテストの結果やスポーツの結果だけを見ていませんか。一人一人をやさしい目で見て、一つ一つの出来事にやさしく対処したいものです。
 木村さんのような大事業は出来なくても、せめて周りの人をやさしい目でみて幸せにしてみませんか。その様な努力だけでもして見る価値はあるように思います。昨年木村さんが出雲市の小学校にりんごの木の栽培の指導に来られて講演をされました。薬局の先生が聞きに行かれたので本にサインを頂きました。その言葉が「下手様 人生はこだまだよ」と書かれていました。自分が一生懸命に頑張った分だけ過不足なく自分に跳ね返ってくるとの意味に私は取りました。今後も不平不満を言う前にとことん自分でまずは頑張ってみようと改めて思いました。
 奇跡のりんごを読んでない方は是非読んで見てください。幻冬舎からの出版で石川拓治さんというジャーナリストが上手に木村さんのことを引き出しています。