院長の独り言
Monologue

2008.11.1

情けは人の為ならず

「情けは人の為ならず」という言葉があります。人に親切にすることはそれがめぐりめぐって自分の為になるという意味です。
 開業して10年目に突入しましたが、最近この言葉の意味が特に分かるようになりました。今の時代は商売などで自分に得になる人には親切にしますが、あまり得にならないと自分が判断した人には冷たくする傾向にあります。しかし、実際はそうではなく、損得抜きで人に親切にする人が成功するのだと思います。私は落語のネタでこの話を度々聞くことがあります。困っている人に心の底から出来ることをしてあげることは、何時の日か自分に返ってくるという小話です。
 患者さんに対して一生懸命に自分にできる精一杯のことをしてあげて、治って来院されなくなった人が知人を紹介してくださることは度々あります。また、子供の学校でのトラブルを共に考えて解決の糸口を見つけてあげた人が、私の師匠が来たときの接待でその人の職場で思わぬサプライズな特典をくれたり、ここ10年この言葉を実感した経験は数限りがありません。この言葉に支えられて医師として踏ん張ってこれていると言っても過言ではありません。
 人は一人で生きることはできません。多くの人の世話になって生きています。ですから、誰かが自分にすがって来たときには、自分の力を出し惜しみすることなく、その時に出来ることを精一杯することが大切で、その結果として自分の成功につながってくるのです。その時に人を見て損得を考えていては、結局自分に情けが返ってこないのです。日本人の美徳はこの言葉にあるように思えます。アメリカを模範にいていたここ10年位の日本は狂っていたように思います。
 新しく商売を始めた人に商売のことを相談された時に、オーナーにこのことを伝えています。成功したいと思ったらできる範囲の安い料金で精一杯のサービスをしなさい。儲けようと思わないことが儲けにつながりますよと気に入ったオーナーには言うことにしています。長い歴史の中で客に慕われるその信用こそが、その店の大きな財産なのです。私がよく行く店はどこもこの不景気の中でも頑張っています。
 先日、製薬会社の当院の担当だった営業の人が関西に転勤になり、もう私が使う薬でその人の営業が伸びることはなくなったのに、所長を通じて訪ねて来てくれました。私に接する事が明らかに得になるときは誰でも近づいて来ますが、担当でなくなると縁が切れるものです。それでも、義理堅く訪ねて来るような人はどんな場面でもきちんと誠実に仕事をするはずです。その人はきっと出世すると確信しています。
 こんなにぎすぎすした時代になってしまった日本ですが、日本人に流れている「情けは人の為ならず」の精神を持って、みんなで助け合う社会を取り戻して行きたいものです。もし、息子が私の後を継いでくれたら真っ先にこの言葉を教えようと思っています。