院長の独り言
Monologue

2008.8.1

超一流の二流選手

間もなくオリンピックが始まります。今回、私が最も注目している選手がいます。それは野球に出場するヤクルトの宮本慎也選手です。これといったずば抜けたプレーをする選手ではありませんが、あの厳しい星野監督が昨年の予選に勝った後に宮本慎也だけは今から選ぶことを決めていると公言していました。なかなか星野監督がそこまで信頼している選手はいません。勝っていて選手が浮かれているときは選手を引き締めて、リードされている時はみんなを励まして、今選手達が力を発揮するにはどんな行動をして、どんな言葉をかけたらよいのか知っていて、卓越したリーダーシップを発揮すのです。選手として確実に監督の指示に従える能力が備わっているのです。
 それは、ヤクルトに入団したときの野村監督との出会いの中で、一流選手の素質がない宮本に野村が「超一流の二流選手を目指せ」と言った言葉に素直に従い、精進した彼の努力と自分を十分に理解した結果が、今日の活躍につながっているのです。
 私を含めて多くの人間はどの世界でも二流の素質しか備わっていません。イチロー、松坂級はごく一部の人間のみに備わった素質なのです。すべての人間が一番になろうとするから、無理が生じて挫折してすべてを失うような結果になってしまうのです。自分を知り、その状況に応じた努力をして、少しずつ結果を残して行く先に、超一流の二流選手への道があるのです。
 医者の世界でも、スーパードクターは限られた少数の医師です。多くの私の様な二流の医師は、自分の能力をしっかり分析して、出来ることと出来ないことを認識して出来ないことはもっと優れたドクターに頼み、地味な日々の仕事に精進して超一流の二流医師になれば良いのだなと、私自身勉強になりました。世界的な研究をしたり、天才的な技術を持った外科医はごく限られた医師たちです。また、私自身も開業医をしていて学問的には低い地位にあります。しかし、開業医には身近に患者さんに接する大切な役割があります。大学病院の様な設備はなくても学会に行く機会は少なくても、日々精進して超一流の開業医になれば良いのです。素質が元々平凡な訳ですから、努力をしなくなった段階でだめになってしまいますが、ずっと努力をする癖をつけると何時までも超一流の二流でいることができます。
 宮本選手にその言葉を教えた野村監督も偉いが、それをずっと胸に秘めて実行している宮本選手はもっとすごいと思います。その実行の中で苦労しながら会得したリーダーシップが、オリンピックでの星野監督の信頼を得て、きっと活躍してくれるものと思っています。優勝するしないは二の次です。皆さんも自分の人生をこの角度から観察してみてください。オリンピックで宮本選手を注目してみてください。
 日本の国自体も資源があるわけではなく、ユダヤ人の様に特別の才能を持った民族ではないので、努力を常にして技術を磨いて、超一流の二流国家を目指して行くべきだと考えます。こんなことを考えていると気が楽になり、少しこれからの人生が楽しくなりますよ。