院長の独り言
Monologue

2008.3.2

自分のストライクゾーンを知ってますか

1月にNHKの茂木健一郎さんの番組にイチローが出演していました。いろいろなイチローの話を聞いていて、心に残った言葉があります。
 それは「メジャーリーグでストライクゾーンの球を打つのは自分が最も上手だと思う。しかし、今まではややボール気味の球も技術で打とうと思っていて、難しいボールに手を出して凡打することがありました。たまにはボール球も上手く打つことが出来るのでよけいに手が出ます。これから首位打者を常に狙うためにストライクゾーンの球だけを打つことにする」と言っていました。
 私は目から鱗が落ちました。今年は数え年で50歳になります。50歳にして天命を知る年です。自分自身の特性はかなり分かって来たつもりですが、もう一つ自分自身をつかみきれないところもあります。何より私自身も自らのおごりや集中力のなさから、ボール球に手を出していた気がします。ストライクゾーンの球を打つ技術は日々の修練でこれからも磨いて行くべきですが、現在の自分のストライクゾーンをはっきりさせて、そこだけを打って行くようにしたら、どんなにか確率の高い人生が歩める事かイチローに教えてもらいました。イチローは天才打者と呼ばれていますが、運動神経だけでなく考え方や努力も半端ではありませんでした。
 24年前に研修医で丸亀市の300床程度の私立病院に半年勤務したことがあります。特に研修に優れた病院ではありませんでしたが、東京女子医大から外科の先生が3人赴任されていて、可愛がってもらい胃カメラ、気管支切開、気管内挿管、胃透視、エコー検査、外科縫合、外傷処置など救急医療や検査など覚えたいさかりで、夜中もチャンスがあれば呼んでもらって学んでいました。学問的な勉強は全くありませんでしたが、救急で今何をしなければならないかかなり勉強になった日々でした。また、内科には60歳位の小林実先生という味のある老医師がおられて人生の機微を夜飲みにつれていってもらって教わりました。小林先生が私に「あんまり何でも出来るようになって自分の医療の範囲を広げると自分を苦しめるぞ」と言われたのです。その先生は喘息が専門の何でも出来る先生で、大学の医局に属さないアウトサイダーの名医でした。
 小林先生の何でもできると自分を苦しめるぞとの言葉は当時の私には理解できませんでした。最近になって言葉の本当の意味が分かってきました。ストライクゾーンを広くし過ぎるとその技術の維持が大変だぞという意味でした。私の医療人としてのストライクゾーンはかなり広い方ですが、勢い余ってボール球に手を出してしまうことがあります。そんな時は不安になり、余計な神経を使ってしまいます。医師として働く場合も、プライバシーの人間関係も家庭で父親としての子供との接し方においても、自分の今のストライクゾーンの範囲で生きて行き、少しづつゾーンを広げる努力を日々行えば良いということをイチローに教わりました。これから年を取っていくにつれてストライクゾーンが狭くなってもその範囲の中で一生懸命頑張れば良いということです。
 人生とは自分のストライクゾーンを確立し続け、新しいストライクゾーンを探して行く長い旅のようなものかもしれませんね。
 皆さんも是非、自分のストライクゾーンを日々探して見てください。そうすれば自ずと打率はイチローの様に上がって行きますよ。また、少しづつ努力してストライクゾーンを広げれば新たな夢も見ることが出来ることでしょう。
 今日は妻の誕生日です。結婚して19年になります。結婚生活もストライクゾーンだけで勝負するように心がけていますが、それでも妻の剛速球で三振してしまいます。日々修行です。