院長の独り言
Monologue

2023.4.28

落ちていくことが必ずしも悪いことではない

  2世紀頃のローマ帝国の皇帝マルクス アウレリウスが「投げられた石が上って行くことが必ずしも良いことでもなく、下っていくことが悪い事とは限らない」と書き記しているとYouTubeでしりました。

 つまり生きて行く中で上手くいかないからといって、それが将来悪い結果を招くわけではなくて、調子が良い時でもそれがいつまで続くかわからないということです。

 大切なことは、現在の結果がたとえどうであろうと、また今から進む道が茨の道が想定されても自分が決めた道を信じて進んでいると、運よく成功へ導いてくれる可能性があるということです。世の中の成功者と呼ばれている人のどうしたら成功するかという話は全く参考にならず、たた信じた道を迷わずに進んでいるうちにどこかで運が向いてくれる時があるかもしれないということです。

 私は63歳になって多くの患者さんと出会ってこのことがとてもよくわかります。以前にも述べましたが、19歳で父が他界してその後実家の建設会社を継いだ母の弟が10年で倒産させて、私も大学院の頃に借金をかぶって人生のどん底を味わいました。結婚して田舎の病院に派遣してもらって生活費を稼がなくてはいけなくなりました。そこで、ただただ置かれた立場で困難な道をひたすら一歩づつ前に進むのが精一杯でした。病院長になって経営を立て直すために経理を勉強して、また生涯の漢方薬の師匠となる寺澤捷年先生に出会い、先生の様に面白い講義が出来るようになりたいと東洋医学を勉強して話術も勉強しました。西洋医学の師匠である小林祥泰先生に寺澤先生を紹介したところ、二人は大変に気が合って仲良くなったのも私には好都合でした。その頃漢方はかなりマイナーで誰からも注目されることはありませんでしたが、ここ最近漢方ブームが到来して多くの人に注目されるようになったのは、全くの偶然であり運が良い以外の何物でもありません。ただただ漢方薬を使っての治療が楽しくて、漢方を使った新しい治療をひたすら研究してきて今日があります。

 当院には全国から多くの患者さんが来院されます。その中で会社を経営されている方のほとんどが若いころ挫折を味わっています。シングルマザーに育てられて貧乏で大学に行けなかった人。ヤンキーで喧嘩ばかりしていた人。元反社会的行為で生活していた人。今では立派に社会に役立つ仕事をしています。投げられた石が下って行って好ましくない状態であっても、将来の成功を夢見てとにかく一歩づつ歩みを続けていったのだと思います。その年輪が顔に出てくるのです。その人の過去の苦しい生活と現在の良い状態も全部含めて漢方薬で対応していきます。

 自分が将来どうなっていくのかは誰もわかりません。それは自分ではどうにもならない世の中の動きや出会いなど予測不能の運が絡んでくるからです。ひたすら信じた道を損得なく一生懸命に生きている人にしか運は転がり込んでこないことを過去の歴史が証明しています。

 悩んだ時、大きな岐路に差し掛かった時、その時の近い将来の損か得かを考えて決断するのではなくて、何をするべきかという信念を持って頑張っていくことが大切で、それがいわゆる世間的に成功でなくてもよい。自らの信念に従って生きたことに誇りを持てる生き方をしてほしいです。

 現在良いと思われる私もいつどん底に落ちるかわかりません。その時は笑ってその状態を受け入れる覚悟は常に持っているつもりです。