院長の独り言
Monologue

2022.8.25

2022年インターハイ剣道大会での大社高校の活躍で感じたこと

 2022年8月に開催された全国高校総体剣道大会(インターハイ)で大社高校剣道部が素晴らしい成績を残しました。男子個人で坂本涼輔君が3位、山根平君がベスト8,女子団体でベスト8という立派な成績でした。剣道をやったことのある人は良く知っていますが、インターハイでは九州学院をはじめとする九州の高校が毎年優勝して上位を占めます。その中で島根の選手がベスト4やベスト8に入るのは奇跡に近いのです。大社高校剣道部の監督は小村健先生で日本一強いと言われている筑波大学剣道部の出身でレギュラーでした。もちろん大社高校の出身でお父様が私の恩師の故小村美正先生です。

 小村美正先生は50年前にまだしごきと思われる暴力的な指導が盛んな時代でも、剣道はスポーツだから科学的に工夫をして指導をされていて、私の母校をはじめ赴任する先々で県内トップの成績を生徒たちにもたらしてくれていました。口癖が「もっと頭を使いなさい」でした。試合になる前は勝つために鍛錬をしますが、いざ試合では実力の差は歴然とある訳で、弱いものでも人間力で強いもの勝つことがあります。私はその時にははっきりと理解が出来ませんでしたが、最近ではその意味がよく分かります。実力7割人間力3割、このバランスが勝敗を左右するのではないでしょうか。息子の小村健先生もそのことをよく分かっていて指導されているということが今回証明されました。

 個人で3位になった坂本君の新聞でのコメントに私は感動しました。「自分の方が攻撃が弱いと思ったので、延長に持ち込んで戦って勝つことができました」この何気ないコメントの中に彼らがいかにして日頃鍛錬を重ねていて、試合で勝つためにどのような考え方を徹底的に植え付けられているかがわかります。私も何度も経験がありますが、剣道では試合時間内に勝負がつかないと個人戦では何度も延長戦を重ねて勝敗が決するまで行われます。時間が経過すると体力もなくなってきて、もう負けてもしかたがないと思う弱い心が生まれてきます。そこで実力は上でも負けてしまうことがあります。延長でも負けない体力をつけるために厳しい練習を行って、不利な状況でも勝つためには相手をしっかりと観察して、ほんの一瞬生まれた隙をつくことをねらっていきます。こういう教えは剣道の厳しい稽古とは別に考える剣道を行う癖を日々植え付けていかないと出来ないし、あのようなコメントは出てこないのです。全てのスポーツはパワー、スピード、テクニックを身に着けることが一番ですが、それよりも大切なことは勝つために人間力を養っていくことなのです。

 スポーツでなくても実社会で活躍するためには、その世界で知識、技術を日頃の努力で身に着けていくことはもちろん必要です。その上に、どんな状況でも勝つための最善の考え方が必要で、その人間力が最も大切な要素であると私は常日頃考えています。そのために一見無駄ではないかと周囲の人が考えるような出来事にも出来るだけ果敢にチャレンジして、いろいろな経験を積むことが大切なのです。

 今回大社高校の剣道部の選手が、こんな人口の少ない島根県でもやり方と考え方次第では、日本のトップの選手と戦うことが出来ることを証明してくれました。私的には恩師の故小村美正先生の遺伝子を聞き継いだ小村健先生の指導が、日頃私が考えている勝利への道を実践してくれたことを大変嬉しく思い、島根県民として誇りに思いました。