院長の独り言
Monologue

2021.5.23

眠るように死んでいった素敵な患者さん

今年の1月と5月に2人の男性患者さんが自宅で永眠されました。2人とも我が斐川町が出雲市と合併する前に斐川町町会議員として一時代を築いた方でとても立派な人でした。共に多くの大病を過去に患っていて心臓の機能が極端に悪化していてBNPという心機能を表す指数が正常の20倍くらいになっていました。さらに共通していたのは家族がとても良い人で、自宅での生活が快適であることも予想できました。さらに最後まで頭がしっかりしていて、病院で最後を迎えることを望んでなくて、いつ家で死んでもいいからこのまま私の診察を望んでおられました。本人たちのインテリジェンスが高いので、心臓がかなり弱っていてそんなに長く生きれないことを正直に説明しておきました。一人は私が診察していて間質性肺炎を長く患っていた奥様を約10年以上前になくしておられて、一人は奥様がいつも一緒に受診されていました。私が心臓が厳しくてあまり長く生きれないことを説明すると「もう私の体はエンプテイですね。もう長く生きたから十分ですよ。先生今まで診てくれてありがとうね」と言ってくださっていました。
  いずれの患者さんも家族から連絡があって「前の日まで元気で食事も取っていましたが、朝起きてみたら眠るような安らかな顔で旅立ちました」と言ってくださいました。この様な患者さんを看取ることは医師としてとても胆力が必要となってきます。患者さんの最後を何もせずにただ少しでも長く家族と過ごさせてあげるには、生前の本人の了解を得ることと家族の理解度が必要なのです。後から何もしないことを家族から指摘されるのを恐れて病院に紹介して入院させて最後を迎えるのが普通のパターンなのです。医師と本人と家族が全て安らかに逝去させてあげたいと思える場合にしか出来ないことです。寝た切りの場合は別で、今では何もしない看取りがやっと世間でも主流になってきましたが、歩けて食事も自分で出来る患者さんの看取りは誰にでも出来ることではありません。BNPという心不全の指標はとても有効で、私はいわゆる老衰の大切な寿命の指標になりうると考えています。
  私も含めて人はいつかは死にます。癌で死亡することが最も多いのですが、ドックで毎年こまめに検査を行っていれば早期発見が出来て、癌の治癒率も向上してきていて、遺伝子検査が進歩してきて癌死は少なくなって行くでしょう。さらに心筋梗塞での死亡もCTで冠動脈の石灰沈着があれば積極的にカテーテル検査も行って心筋梗塞を未然に防げるようになってきました。また、脳の病気はMRIを施行すればいろいろな病気が予見出来て突然死は防げます。認知症が最後に残ることでしょう。認知症になりにくい食事や生活をしっかり理解して行うことが大切です。また、元気な間に自分の病気の予知や死に方について考えるのが、今はやりの終活で最も大切なことのように思います。
    最後に私に色々なことを考えさせてくれて、医師として大切なことを確認させてくださった2人の素敵なおじいちゃんに感謝の言葉しかありません。
   ご冥福をお祈り申し上げます。