野村克也さんの死を惜しんで
先日野村克也元監督さんが逝去されました。彼の解説は極めて理論的で素人の私もすべて納得できるものでした。また、ヤクルトでの監督時代にはそれこそ、礼儀、あいさつから教えて、プロとしての自覚を徹底的に選手に教え込んで、4度のリーグ優勝と3度の日本一に輝いた。。その時の教え子が古田、稲葉、石井、高津、小川、真中など多くの現在の指導者を育てている。その意味では長嶋茂雄や王貞治は選手としては一流だったが、際立った指導者を育ててはいません。
南海のテスト生から貧困のどん底から這い上がった彼の人生の歴史には、多くの学ぶべき教材があります。素質のない自分が長嶋や王に対抗するには努力と考えて工夫を凝らすことしかないと考えて、徹底的に人間の心理を追求しています。阪神や楽天の監督時代には、大物選手の補強もなしにコツコツと若手選手を育てて、よその球団で首になった選手を拾って再生させて野村再生工場とも呼ばれました。運悪く、阪神と楽天の監督を首になった翌年に、いずれも星野監督が就任して、野村の育てた選手を使って優勝しています。自ら月見草の様だと呼んでいた彼の人生には必ず暗い影があったのです。
その影を作っていたのがサッチーこと野村紗知代であり、家庭で監督を明るくしていたのも彼女なのです。南海、阪神、楽天の監督を首になったのはサッチーの破天荒な行動の責任を取っての話であります。妻を取るか監督の椅子を取るかの選択で、彼は迷わず妻を選んで時には日本国民すべてを敵に回しても妻を守りました。何も文句を言わずに仕事よりも家庭を選んだのです。そのお陰か、息子の克典は本当に素晴らしい人間に育っています。
世の中には日頃偉そうなことを言っていても、いざ自分の欲望に目がくらんで大切なものを失う人は沢山います。家族は男にとって最も基礎に当たる自分の人生の骨格であります。その骨格である大黒柱である妻を疎かにする人間が、どうして部下やお客さんによくすることが出来るでしょうか。当院に各地から来院する会社の経営者の遊び人も、誰も奥さんを疎かにしている人はいません。彼らはいくら遊んでも妻が家の柱であることをよく知っています。私は知り合いを判断する際に、妻を粗末に扱っている人は信用しません。また、自分のところで働いている職員を大切にしている人は、ほぼ100%の確率でお客さんも大切にしていることが予想できます。
野村監督が妻のことを、世間ではいくらひどいことを言われても私にとっては本当に大切なんですよとずっと前に語っていたことがありました。妻に先立たれたこの2年間は寂しいつまらない毎日であったことでしょう。そんな中での野村克也さんの死は、本人が望んだ最も安らかな最後であったのではないでしょうか。ご冥福をお祈りすると共に彼が我々に残してくれた多くの言葉の遺産を噛みしめながら、より良い人生を送って行きたいものです。