院長の独り言
Monologue

2017.12.25

有馬記念でキタサンブラックに教わったこと

今年のクリスマスイブは日曜日で競馬の有馬記念と重なりました。この馬は北島三郎が馬主で今まで150頭の馬を買っていてもG 1という大きなレースでは勝ったことがないのに、神様からのプレゼントと本人は言っていますが、G1で7勝という偉業をなし得ました。7勝過去の名馬に並び賞金獲得ではトップとなりました。
  この馬の人気は過去最高で、ただ強いからではないようです。生まれた時は小さくて、買い手がなかなかなかったようです。サブちゃんが自分に似ているからと勝つことは度外視して数百万という破格の安さで手に入れています。  レースに出るようになっても優勝はなかなかすることは出来なかったようですが、この馬の大きな特徴として練習の虫でかなり負荷をかけてもへこたれることなく調教師に従ってついてくるのです。つまり人間でいうとひたすら努力をする才能があるということなのです。競馬の世界では両親の血統を重んじるようなのですが、ぱっとした血統でもなく体も小さくて小さい頃はそんなに疾く走るわけでもなく、毎日毎日一生懸命に努力をして強くなっていった馬なのです。
  世の中の多くの人々は大した血統もなくて生きているのですが、そんな私達に努力することこそが成功の秘訣であるということをキタサンブラックは教えてくれていて、常にみんなが自分と同化させていて期待に応えているからこの人気なのだと思います。有馬記念の前走のジャパンカップで3着でしたが、今回の有馬で引退をすることが決まっていてどうしても勝たなくては行けないレースであったために、ジャパンカップは捨てて有馬に照準を合わせたのだと思います。武豊の手綱さばきも見事でした。スタートからトップに躍り出てそれ以降は力をためてあまり早く走るなよとの指示を出して、まさに人馬一体となって最後の第四コーナーを回ってからの鞭に応えた走りは見事でした。競馬の事はあまり良く知らない私でさえも感動して涙が出ました。
  私が今まで出会った人達の中でこの人は努力をするなと思える人は、私の西洋医学の師匠である前島根大学学長の小林祥泰先生と漢方医学の師匠である寺澤捷年先生です。この二人はタイプは異なりますが本当に努力家です。小林先生とは34年間のお付き合いですが、若い頃から学問、人間関係、遊びなど全てのことに努力を惜しまない人です。汗水たらして頑張って頑張って今の地位を築いた少し泥臭い慶応ボーイです。寺澤先生は東京下町の生まれで江戸っ子を感じる先生で、少しおっちょこちょいですが漢方医学の見識は他の追随をゆるさないほどに勉強をされます。73歳になった現在でも常に論文を学会誌に常に投稿しています。人間関係が苦手で職人気質な人です。
  とにかく二人共勉強家ですが、先生達の後の私の知り合いでなかなか努力家が見当たらなかったのですが最近やっと現れました。出雲ロータリークラブの仲間で中山真美先生です。彼女は夫が島根大学の産婦人科の准教授で数年前に教授選挙に出ましたが、残念ながら現在の教授に敗れています。選挙後は教授と仲良く教室の繁栄に大きく貢献していますが、彼の教授選挙前の基礎データは奥様の真美さんが基礎医学に在籍して出しています。選挙後は約8年位の臨床のブランクがありながら、終末医療や在宅の栄養学の分野で大活躍をして、ヨーロッパに何度も足を運んで英語で栄養学の講義を聞いて試験も受けて、ついに難関で日本に何人もいない欧州代謝栄養学会の臨床栄養指導医をわずかな時間でとっています。英語が堪能でTOEICは1000点満点の960点です。在宅診療所に勤務するかたわら、子育てや家事もこなす中での努力は賞賛に値するものであり、わずか数年の間に緩和ケア学会のシンポジストも務めたり、お家の食支援という団体を立ち上げて県内のその世界の第一人者になっています。。来春には研究の成果が認められて島根県立大学の栄養学科の教授に就任することが決まっています。まだまだ45歳と若く伸びしろが沢山あって、やがては国際的に活躍して皆さんの前に才色兼備なドクターとして登場することでしょう。
  これらの先生達に共通するのは、決してかけ離れた才能を持っている訳ではなくて、強いて言えばキタサンブラックのように努力する才能を持っているということです。よく人は私も含めてもしあの若い時に頑張っておけばもっと違ったより良い人生が送れたのにと言う人がいますがそれは間違いです。現在怠け者は過去に帰っても怠け者であるということです。過去のことを憂うなら今努力するべきなのです。何歳になっても今から努力出来る人なら言う資格はあります。過去に自分が怠けたお陰で大変な目にあって、現在は心を入れ替えて頑張っている人もいますが、その大変なことがあったからこそが今があるので最初から順調であった人生を歩んでいたなら、別の大変な目にあったことでしょう。トラブルあって味わった苦痛が、後の人生で希望や喜びに変えることが出来るのはただひたすら努力する以外に道はないことを先人達は教えてくれています。
  また、馬の話に戻りますが競走馬としての寿命は短く数年です。また、競馬ファンにとって強い馬かどうかを判断する最も重視するのが血統だと言われています。キタサンブラックの血統がかなり平凡なのに努力する遺伝子を授かっていて、努力を重ねて勝利を重ねていったさまは私達に勇気を与えてくれて、例え裕福な名家に生まれなくても頑張れば素晴らしい希望があるかもしれないということを私達に教えてくれました。
  これから先何年医者を続けることが出来るかは私もわかりませんが、武豊が素晴らしい手綱さばきを見せてくれた様に、元気で長生きするために出来ることは全てやって、出来るだけ多くの患者さんを幸せにすることができたらいいなと考えさせられた有馬記念でした。
  来年もよろしくお願い申し上げます。