知恵のある人生
人は誰でも物事を知りたいと思う好奇心があります。だから興味のある事は勉強するし、覚えることが得意な人は東大を始めとする最高学府に進んで行きます。官僚は東大出身が圧倒的に出世に有利ですが、企業の社長になったり政治家になるのに必ずしも東大出身者が有利とは限りません。覚えた知識が邪魔になりこともあると思います。
人間はもう知っていると思った時に思考が停止するとソクラテスは言っています。自分は何も知らないとソクラテスは考えて貪欲に知を実践して追求したそうです。
私が漢方を勉強するにあたり、教科書的な知識を勉強したり他人の書いた論文を参考にすることはほとんどありません。勿論、古典を読んだ事は何回もありますが、現代に書かれた書物の知識はほとんど参考になりません。
ではどうするかというと、昔の人が何故この薬を作ったのか徹底的に考えるのです。葛根湯は「麻黄」「葛根」「桂皮」「芍薬」「生姜」「大棗」「甘草」の7つの成分から成り立っています。葛根湯は風邪にも効くし肩こりにも効きます。また、体の痛みや炎症やなどを抑える効果があり、ウイルス性疾患にも効果があることが知られています。その知識を知っていて闇雲に炎症性疾患や肩こりに投与しても、そこに奥行きのある知恵がなければ葛根湯は言うことを聞いてくれません。葛根湯を徹底的に使用してみて、どんな患者さんに効果があってどんな人に効果がないのかを検討してみて初めて葛根湯が自分の処方になってきます。私は自分に足りないものを補うために、毎月千葉の師匠のところに見学に行っています。毎回収穫がある訳ではありませんが、時々あっと思うような処方の仕方を学び、自分のクリニックで患者さんに投与してみて自分なりの使い方を習得していきます。長い時間をかけて少しの知識しか得ることは出来ませんが、ソクラテスの言っていることが分かるようになってきました。
その専門の世界で生きて行くのに、必ずしも多くの知識は要求されません。それよりも核心をついて自分で習得した知恵は一生の財産となって自分を支えてくれます。それを短時間で弟子や息子などに伝えることは出来ません。苦しいけれども自分で多くの経験をして得た知識でないと人生に生かされません。私はそれを知恵と呼びます。人間はもう自分に習得するものはないと思った瞬間に進歩は止まります。
私ももうすぐ58歳になり、第四コーナーを廻りかかっています。。医師としてあまり多くの時間は残されていません。これからも本当の知を追求して医療を行って行き、知に恵まれた人生を送って見たいと考えています。みなさんも自分の歩んできた仕事や趣味やどんなことでも徹底的に本当の知を追求して見てはいかがでしょうか。