人は本当の事を言われると怒る
私は日本の歴史が好きなので必ずNHKの大河ドラマは何十年も見ています。最も華やかな歴史の場面はやはり戦国時代です。その主人公の両横綱が豊臣秀吉と徳川家康です。この二人の武将の違いは秀吉が天才的に人の心を掴むのが上手で、家康は下手だったと考えられます。それ故に秀吉は人の意見を聞かずに多くの参謀を失っています。千利休は最初は本当の事を言ってそれが秀吉の成長につながって行くので重宝されましたが、一度栄華を極めると本当の進言が嫌になり殺してしまいます。さらに不幸なことに唯一何とか秀吉に進言できた弟の秀長が早く死んでしまいました。もう豊臣のために真実を語る部下がいなくなってしまって、秀吉の死後は徳川に政権を奪われてしまいます。一方、家康は臆病者で慎重であるが故に、重臣達の厳しい進言も聞き入れて上手に利用しています。自分に自身がないゆえに多くの意見を聞いてから決定するという政治です。
トップに立つとわかりますが、自分のやろうとしている政策に対して辛口の真実の意見を部下から言われると嫌な気分になります。本当だなと思ってもプライドが傷つけられて、どうしてもハッピーにはなれないものです。ですが長く成長してきた多くの組織はどんなに末端のものが言った意見でも、正しいことであればその意見を取り入れて組織を改革するからこそ現在があるのだと思います。またお客さんからのクレームは宝の宝庫であると言った成功者もいます。
東芝の粉飾決算、三菱自動車のクレーム隠しなど組織が崩れて行く会社は、必ず本当のことが語れない様になって来ています。
私達の生活の中で、本当の事を辛口で言ってくれる人は殆どいないと思った方が良いです。普通は思ってもないような褒め言葉を当たり障りなく話すものです。本当の事を語ると多くの場合は人間関係が上手く行きません。あうんの呼吸で相手が考えていることを読む必要があります。特に京都や出雲など古代からある地域ではそうなのでしょう。家族位しか本当のことは言ってくれません。慣れてくると現在の自分の状況や相手の状況を瞬時に分析して、相手の目を見れば言いたいことが見えてきます。外国人が最も日本の文化を理解するのに困難な作業は言葉の裏の読解です。
私は患者さんには本当に真実を語ってあげます。それは例え嫌われても話すことが患者さんのためになると思うからです。嘘をついても患者さんは簡単に見抜きます。医学には100%はありませんが、今考えられる自分の知識で最も可能性の高いこと。また、疑われるけども最悪の場合でも逃げ道はあることなど全てを語ってあげます。多くの医師も最近は真実を語るようになってきましたが、その言い方において出来るだけマイルドにユーモアを込めた物言いを学ぶ必要があります。テレビで活躍の北野武、マツコ・デラックス、坂上忍などはその技術を身に着けているから毒舌でも人々に受けるのだと思います。
真実を語られたら人は怒る。だけどもその真実が伝わり、なおかつ気分を害されないように話す話術を身に着けたいものです。
逆に、自分が聞き手となった時には勇気をもって嫌われる覚悟で真実を語ってくれた部下を疎まずに重用する組織こそが、ピンチに強く将来伸びて行くのではないかと考えます。