院長の独り言
Monologue

2014.11.29

錦織圭のセルフハンデイキャッピングの克服

出雲大社以外はあまり誇れるものがない島根県にとって錦織圭くんの活躍は誇らしい限りです。
 圭くんは礼儀正しく、性格が温和でとても世界の猛者と対決出来るような性格の持ち主ではなかったのですが、マイケルチャンコーチについてからは、精神的にかなり強くなったようです。チャンコーチが行ったセルフハンデイキャッピングの克服が我々の生活にも参考になりそうなので述べてみます。
 セルフハンデイキャッピングとは、失敗した時のために予め失敗の理由を外に作ったり、成功の理由は自分自身にあるということを予め話しておくことなのです。
例えば、圭くんが、フェデラーやジョコビッチと対戦する前に「フェデラーにあこがれてテニスをやっているので対戦できるだけで幸せです」と以前は話していました。これは予め負けた時の理由を話しておいて、自分自身が傷つかないようにするために多くの日本人が使う言葉です。これでは最初から負けることを想定している訳で、接戦の苦しい場面でどうしてもあきらめの気持ちが勝ってしまいます。一見謙虚な言葉ともとれますが、実際は自分が可愛くて惨めな自分の姿を少しでも和らげる自己防衛なのです。これをチャンコーチはやめさせました。「今の自分ならどんな相手とやっても勝てるような気がします」と言って実際に勝つことも出来ています。あの謙虚で温和な圭くんがこんなに強気になれるんだと驚きましたが、セルフハンデイキャッピングの克服によってジョコビッチやフェデラーとも互角の戦いができるようになってきました。
 私達の生活において、学生時代の試験前に勉強が全然出来てないと言って実際の試験になるとトップにいる同級生がいたと思います。もし結果が悪ければ準備不足で、結果が良ければ自分が頭が良いからとの発想にもっていくのがねらいです。試験前にマンガや本を読みたくなるのも、結果が悪かった時のためのセルフハンデイキャッピングです。日本人に染み付いた負けた時に自分を保護する行動なのです。スポーツの世界でみんなから好かれる好青年が試合に弱いのはこのセルフハンデイキャッピングが災いしていることが多いのです。浅田真央しかり、過去に金メダルを期待された国民的な選手は多くの選手がそうであったと思います。テレビで見ていてふてぶてしくて感じが悪く生意気な選手は、もって生まれた性格で自然に克服できていますが、圭くんのように本来の性格は謙虚で大人しいのに、あのような強気の発言を努力して言ったことに意義があり、真の国民的なスターになって来たことも理論的で納得できます。
 私自身の診療で、何件も医療機関を回って治らなくて最後に漢方薬に活路を求めて来院される方が時々います。私はその時には「治す努力を最大するから、ここを最後にしましょうね」と言うことにしています。勿論治せないこともあるのですが、例え100%治らなくても3割でも良い方向に行けば患者さんはかなり納得してくれますし、私自身も退路を断って出来る限りのことをして、それでも目処が立たない時はもっとふさわしい医療機関に紹介することにしています。治すことが難しい症状であっても私が弱気な発言をしてしまうと上手く行かないことが多いのです。
 日本人は誰しも人からよく思われたいという気持ちがあります。自分の欠点を隠そう隠そうとします。このことは日本社会で生きて行く上では当たり前のことですが、こと勝負どこのターニングポイントになるような場面では、強気の自分を出してセルフハンデイキャッピングを克服してみてはどうでしょうか。その方が結果が良くても悪くても、好感を持たれる様になって来た現代社会なのではないでしょうか。 ただ、そこに行くまでには圭くんの様に、つまらない反復練習を毎日繰り返し繰り返して行う努力が、最も大切であることは言うまでもありませんが。