院長の独り言
Monologue

2014.7.30

人はなぜ旅をするのだろう

普段忙しく働いている人ほど旅に出ることを好むように思います。例えそれが1泊の短いものであっても出るのが好きです。
 それはなぜなのか私なりに考察してみました。私の場合でいうと、月火水金土と信じられないくらいハードな生活をしています。木曜日は大学で講義をしたり外来をしたり、法律の勉強をしたり、かなりの時間が雑用に追われますが、唯一第三周目の水曜日の午後から木曜日に千葉にいる師匠の寺澤先生の外来を見学に行きます。最近では寺澤先生の弟子の伊藤隆先生が東京女子医大の教授に就任されたので、午前はそこへ見学に行き、午後は千葉に行って羽田から最終便で帰ります。前の日は銀座に泊まって美味しいものを食べたり酒を飲んでストレスを発散することができます。この忙しいスケジュールでの時間が心の洗濯をしてくれます。土日は講演で遠くは北海道に行き、夜について昼前に喋って飛行機で帰るだけの工程ですが、これもかなり有効な気分転換です。出来れば観光をしてみたいのですが、夜ついて寿司を食べて、さらに人気のラーメンを50分並んで食べるたのも、一つの大きなイベントでした。
 私にとって下手公一を知らない人が住んでいる土地での時間は、十分な気分転換であり、世の中を知る大切な機会なのです。職業を聞かれて医者ですかと当てられたことはほとんどありません。IT起業家、不動産屋、政治家、マスコミ関係ですかと言われることがほとんどです。今までの知名度が全く通用しない世界で、現在の自分の力と話術だけが頼りとなる時間を過ごすことは、もっと自分自身を高めたいと思っている人には重要な時間なのです。
 一部上場企業の社長が、秘書も何もつけずに自分のカリスマを消して普通のおじさんとして過ごして見たくなると聞きます。
 それはどういうことなのでしょうか。普段のビジネスをしている時の自分は、勤める組織の業績やら、家族のことや知人との付き合いや。さまざまな因子がからみ合っていて、取るべき行動は限られた道です。それから外れると大きな損失を生むので冒険はできません。ところが旅先での行動は、夜中の11時に50分待って人気のラーメンを食べて例えまずかったとしても、無の境地の自分が行った行動なので何の後悔もありません。銀座に一元で初めて入った店で対応が悪くても、今後の参考にするだけなので後悔はありません。斐川中央クリニックで多くの患者さんを診察していることなどは、東京の人は誰もしらないので、生の自分自身の力がどの程度のものなのか試すことができます。昼の銀座は台湾人と中国人が沢山いて、台湾人は礼儀正しくきれいな格好をしていて、中国人はそうでないので大まかには区別ができる。そんなことを喜んで銀座を歩きます。
 などなど、普段診察室で勉強出来ないことが旅先では経験できます。何も風光明媚な観光地に行かなくても十分に気分転換出来て、病んだ心を癒やすことが出来ます。 剣道で無心で戦え、無の境地になった人が達人であると考えられていますが、欲深い人間が普段の生活で達人にはなかなかなれません。しかし、ところ変えて旅に出れば、そこは普段の生活と何の関係のなく、自由にやりたいことが出来る世界なので、松尾芭蕉のような無になれて別の角度から世間を眺めることが出来ます。だから忙しい人ほどさらに忙しく旅をするのではないでしょうか。普段は何のストレスもなくゆったりと過ごしている人には、このような旅の感覚は必要なく、むしろ疲れるので家でぼーっとしている方が良いと思えてきます。
 旅でなくても、素晴らしい趣味を持っていて、それをしている時は普段の世知辛い生活を忘れることが出来る人はそれで良いと思いますが、ゴルフなどのように友達に負けて悔しく思うようなスポーツはそれに向きません。私はゴルフをしますが、練習して腕を磨くなどという面倒な感情はなくしました。ただ、青空の下で適度な運動をして、気持よくプレーが出来ればそれで良いとの考えになってから気が楽になりました。ストレスを発散してくれるはずの趣味が逆にストレスになってしまっては何の意味もありません。
 皆さんも旅でなくても何か心を無にしてくれて、自由に行動できる時間を定期的に作ってみませんか。この時間を持つことが、実生活での成功つながるような気がします。