院長の独り言
Monologue

2013.9.30

半沢直樹から学ぶもの

先週の日曜日まで半沢直樹という銀行員(バンカー)のドラマが久々に日本人の心を捉えました。私も後半から見だして何よりの1週間の楽しみなりました。27年前に実家の建設会社が倒産した経験もあるので、自分のことのように視聴していました。父の死後、仕事は順調にありながら叔父の放漫経理が原因でメインバンクから見放されて、その後1年間私が四国や東京に研修に行っている間に、第二番目の銀行で融資をつないでいよいよお金が回らなくなっての黒字倒産でした。
 最初は見放されたメインバンクを恨みましたが、31歳で自分で雇われ院長になって経理を勉強しだしてから、メインバンクの気持ちは十分に理解出来ました。問題は第二の銀行が私や母の保証人をとって無理な融資をしたことにあると気がついたのです。
 半沢直樹を見て、気が付かれたと思いますが銀行はボランテイア団体ではなくて上場企業です。お金を貸して返済してもらい、その利ザヤで多くの職員を養い、株主へのの配当も行い、社会の経済が上手く循環するようにするのが仕事です。ですから、明らかに倒産すると分かっている企業にはお金を貸すことは出来ません。売上がじり貧になってきていて新しい展開もなかったり、いくら儲かっても経営者が放漫にお金を使ってしまう時はお金を貸すことはありません。ですが、もう少しの融資で助かって業績を伸ばしそうな企業には、赤字でもお金を貸すことはあります。新規の設備投資で増収が見込まれる時などです。つまりは人を十分に観察することが大切なのです。誰が見てもも立ち直りが難しい時は、廃業の道を選ぶのも大切な選択なのです。
 建前はその通りなのですが、テレビにあるように銀行は時として、助かる見込みがあるのに、そのバンカーの出世や上司からの命令で、助かるものも切り捨てることがあるのも事実です。優良な企業に融資することも大きな出世の力ですが、融資先が自分がいる間に倒産して自分が融資したお金が、不良債権になることを防ぐことも出世の力なのです。
 半沢直樹は、人を見る力が優れていて、ダメなものはダメ、今はダメでも将来立ち直る企業は勇敢に上司に逆らっても助けます。銀行で上司に逆らうことは将来の出世に大きなマイナスになることは覚悟の上で、自分のバンカーとしての信念に沿って行動します。見せかけの力ではなくて、クライアントの真実の力を見ぬく力量が備わっています。だから、日本人の多くがこのテレビを見たのだと思います。
 この話はバンカーだけの話ではなくて、医療界や他の職種でも同じ現象があります。自らが日々努力して真実を見極める力を養って、半沢直樹のように、例え上司の命令であっても信念に従って逆らうことの出来る人は、本当に優秀な人です。ですが、日本の組織ではそんな人は出世できないのも事実です。みんな毎日我慢をしながら上司の言うことを聞いて働いています。ですから、半沢直樹の様な人間に憧れるのです。半沢直樹のような人間は自分で起業して、オーナーとして信念を貫けば良いではないかと考えられますが、自分で経営してみると今度は利益を上げなくては組織を維持できないので、必ずしも初心を曲げずに信念に沿って生きることは難しくなってきます。
 つまり、どの世界で生きるにしても、自らの良心に従って生きて、正しい信念を貫くことは、余程の覚悟がないと出来ないことなのです。歴史に名を残した限られた人しかできないことなのです。そんな歴史上の人物も、全てが後世に語り継がれるような良いことばかりではないことも予想されます。
 人間は、自らの欲を抑制して、それでいてどのように成功するのか、一生をかけてその道を探し求めて行くのだと思います。答えは死ぬころになっても見つからないでしょうが、その道を探りながら生きていくことが大切で、諦めてしまっては、ただの強欲な成功者か理想ばかりが高い落伍者で終わってしまいます。
 どの世界でも、実現することのない半沢直樹を目指したいものです。