院長の独り言
Monologue

2024.2.27

孔子、老子と漢方

  日本人の昔からの精神構造は孔子による儒教的な精神が長らく支配してきました。仁、義を重ずる古来からある思想で、目上の者は絶対的存在で、親や上司には決して逆らってはいけない考え方です。中国で紀元前に孔子が説いて、のちに論語としてまとめられました。ある意味日本の高度経済成長を支えていた精神と考えられます。ただひたすら文句を言わずに働くかつての日本人の美徳と考えられてきました。

 一方、孔子が政治の中枢で活躍していた紀元前の春秋時代に、老子という図書室のようなところでひっそりと働いていた役人がいて、孔子とは全く逆の思想をのちの世にのこしています。自分の生き方を他人とは比較することなく、無理をせずに成り行きに任せてあくまで自然に振る舞うことが大切であるという考え方が根本にあります。

 老子の「無為自然」の考え方は、私自身の人生の大きなピンチの際にとても役に立ちました。一生懸命に努力しても結果が伴わなかった時、自分が頑張りすぎて部下がついてこれなくなって空回りしたとき、あるいはそんなどうしようもない状態の患者さんの相談にのった時、そんな全てのピンチの時には仁や義ではなく老子の自然な考え方で乗り切ってきました。

 江戸時代の武士は殿様に迷惑をかけた時には切腹をすることが武士の美徳とされてきました。明治の時代になって多少の自由民権運動が少しばかり唱えられるようになって、戦後も徐々には自然な生き方をする人が出てきましたが、変わり者扱いされてきました。

 本当に日本人が自由で自然な生き方も選べるようになったのは、平成になってからで特に令和の時代になって明らかに人々の考え方が変わってきたように感じます。

 漢方医学において陰と陽という物事のとらえ方があって、強くて明るい陽に対して弱くて後ろ向きの陰があり、その陰と陽がバランスよく調和することによって健康が保たれています。孔子の考えは陽で、老子の思想は陰の様だと考えます。陽に傾きすぎると一時期には上昇するものの長続きしません。どこかに陰の要素を絡めていって初めて人は良い人生を送れるのではないでしょうか。人それぞれに個性があり能力も運も異なります。人は人で他人のことは気にせずに、自分の人生を流れに沿って自由に暮らしてみてはどうでしょうか。本当に努力が必要な時には孔子に出てきてもらって出来ることを行い、普段は老子の思想を参考にして自分の独自の「道」を歩んでみてはどうでしょうか。