飛行機の中でのクレーム客
先日、千葉の寺澤先生の外来見学の帰りの飛行機でJシートに乗っていた客がCA(スチュワーデス)にイヤホンからの音が聞こえにくいとクレームをつけていました。美人ではないが可愛い感じのCAでありましたが、イヤホンを何度も取り替えて音を試してクレームに対応していました。最初は不機嫌であった客も段々と軟化して来て、もういいからと言っていましたが、最後までいろいろなイヤホンを持ってきてはその客のために頑張って対応していました。結局は最後まで上手く行かなかったみたいでありましたが、客は相手をしてもらって大満足のようで、出るときにはお礼を言って飛行機から出て行きました。
CA達は客からのクレームに対してこのようなトレーニングをされていたのかと感心しました。誰の目から見ても2,3個のイヤホンを試してだめなら、その席の音源が悪いことは明らかであり、客もCAも分かっているであろうに我慢比べの様に何回もトライしていました。「例えダメでも今できることを全て行う」の精神で私はとても共感しました。
医学の世界ではできることと出来ないことの境が曖昧で、医学に100%はないことは100年経っても同じ状況であろうことは、科学を少しかじったものであれば誰でも知っています。ですが、医師には今その場でできる最大限の判断が要求されます。また、サービス業であれば、普通は出来ないけどもその場の客の状況を判断して、その場その時に出来る限りのサービスをしなくてはいけないこともあります。最初の一言を間違えて客を怒らせてしまうことはどこの世界でもあるはずです。
また、数ヶ月前にこんなこともありました。ある重大な病気を診断して救急車で大病院に送ったことがありました。私としては助かる時期と考えて送ったので、10日後の死亡欄にその患者さんの名前が載っていたのには驚きました。数日後に家族が挨拶に来られて、救急車で送ったのに家に返されて、数日後に来院の指示があったので行ったら私が診断した病気であって、それからは後手後手で死んでしまったようでした。訴えますかと恐る恐る聞いたところ、最後の最後に誤診をした主治医の先生が一生懸命に診てくれたし、年もとっているし、人間には誰でもミスはありますから訴えませんと言ってくれて大病院の主治医は助かったのでありました。たまたま、温厚な性格の家族であったのと、私の診断を無視してミスを犯した主治医はその後の処置を死に物狂いで行ったから助かったのでした。
機械も人間もミスは犯します。ですが、その場その時で出来うる最大限の努力をしたかどうかで、その後の運命は大きく違って来ます。本当は大病院の主治医にも救急患者さんを診察した際に出来うる最大限の努力をして欲しかったのですが、第二段階での最大限の努力をして自分を助けました。
癌の末期の患者さんを診察する際も、医学的にはそんなにすることはなくても、その患者さんが望まれることを最大限行なってあげることも医療人の使命であり、それで少しの笑顔を見ることが出来ればそれで良いのです。
毎日のわずか診察時間の中で、その時に出来うる最大限の努力で患者さんを観察することは大変なことではありますが、医師をやっている限り避けて通れない努力であり、先日のCAさんにも改めて教えられました。