院長の独り言
Monologue

2010.6.28

RAILWAYSを見て

1週間前に出席すれば良いだけの講習会があって、聞いているうちに眠くなったので映画館に行きました。丁度時間の都合がよくて RAILWAYS を見ました。大した期待もせずに島根が舞台となっているので暇つぶしのために見たわけです。映画が半分位に差しかっかったあたりから涙腺が緩くなって、何回も涙が出て止まりませんでした。
 あらすじは、主人公の中井貴一が大手の電気メーカーに勤めるエリートで家庭を顧みずに出世してきました。妻の高島礼子は都内にハーブテイーの店を出したばかりですれ違いの毎日。娘は大学生で就職活動中でちゃんとしないとだめだと父に小言を言われ、仕事ばかりで家庭のことを考えない父に疑問を持っている。そんな時に島根に住む母(奈良岡朋子)が心筋梗塞で倒れて胃がんも見つかりました。また、会社の親友が事故で死亡してその二つのことがきっかけになって、わが人生を振り返り、子供のころ夢だった一畑電鉄の運転手の応募を見て、49歳にして夢を叶えることになりました。
 一流企業の重役のポストを捨てて、故郷の島根の何時つぶれるか分からない鉄道会社の運転手に転身したのです。田舎の電車を運転する中でひと時ひと時を大切にして、田舎で暮らす人々の人情に接してより人間らしい自分を取り戻すのです。
 その後は人が変わった様に「あるがままの自分」で生きて行き、娘にする就職のアドバイスでも「ゆっくりでいいからね。少しでも前に進めばそれで良い」と、一流企業で働いていた時とは別人の言葉を言うようになりました。娘も父を受け入れ介護福祉士として島根で働くようになりました。妻は東京でハーブの店は続けるものの終着駅まで一緒に歩もうと誓いあうのです。
 この映画はがむしゃらに働く現代人に一石を投じています。出世のためと自分の本当の心までも犠牲にして生きることが決して幸せではないということ、自分の深層心理のあるがままの自分にいつか気がつきなさいと言っているような気がします。出世して給料が増えて地位も上がることだけが幸せではなく、逆の方向から見た幸せもあるということを知って欲しかったのでかないかと考えます。努力してもどうにもならない時に、別の角度から物事を見ると簡単に手に入る幸せが何処かにあるということなのではないでしょうか。
 また、都会の生活と田舎の生活の対比の中で、田舎の生活も給料は安くても都会にはない素晴らしさがあることも映画が語っています。
 中井の母親役の生き様も私の母と重なって思わぬところで涙が出ました。息子の迷惑にならないように、息子の幸せを祈って出来るだけ一人で生きようとする姿勢に感動して、自分の人生をチェンジして見たのでしょう。母の愛が彼を人間的な生き方に軌道修正してくれたのです。私の母も剣道の試合の前には必ず「負けてもいいからね。負けても大した問題ではない」と試験の前には「落ちてもいいからね」とクリニックを開業する前には「上手くいかないこともあるからね」といつもいわゆる成功とは別の角度から息子を見て、アドバイスをくれました。私はその言葉に何度も助けられました。今現在も2世帯の別の部屋に住んで私を見守ってくれています。
 何時からでも遅くないのです。何かのピンチの時こそ、その時はより良くなるチャンスかもしれません。この映画を見てそう思いました。その人が変わってくると家族や周りの人も徐々に良い方向に向かってくるのです。問題はそのチャンスに気がつくかどうかなのです。
 日本の現在の社会の閉塞感に対して大きなヒントをくれる作品です。何か今の生活に疑問を持っている方はぜひ RAILWAYSを見てください。それぞれの人生応じたコメントをくれると思います。人それぞれで感動するポイントも異なるだろうし、同じ人でも見る時期によってその味わいは違ったものとなるでしょう。そんな奥の深い映画です。私はもう2回位は見ようと思っています。2回目も別のコメントをくれそうな気がしています。