院長の独り言
Monologue

2009.9.23

イチローの凡打

イチローが大リーグで9年連続200本安打という新記録を達成したことはご存じだと思います。WBCで日本チームを引っ張ってきて、ずっと活躍できずに最後の韓国との決勝9回表で試合を決めるヒットを打ちました。最近のインタビューでこの時の恐怖は今までで最も大きなもので、この体験でどんな打席でも平常心で打席を迎えるようになったと言っていました。そのインタビューでイチローが興味深いことを言っていたので紹介します。「凡打した時に、人から見るとただの凡打でも自分から見ると、たまたま凡打になっただけで同じように打っていれば次に必ずヒットを確信できるような凡打が多くなってきた」と言っていました。やはりイチローは他の選手とは格が違いなぜここまで道を究めたのか理解できました。つまり、ホームランやクリーンヒットを打った時は打ち方が誰でも良い訳で、普通の人はその結果に喜び、凡打の時はその結果に対して悔しがります。イチローは会心のヒットの話題よりも、凡打した時の技術を上げようと思っているのです。その時の自分の打ち方が良ければ次は必ずヒットにつながるのでくよくよするな。たまたまホームランやクリーンヒットを打ったくらいで喜んでいるようでは一流選手になれないと言っているのです。
 我々の日々の人生に置き換えると、「成功した時は浮かれるな次に成功するかどうか分からないぞ。逆に失敗しても過度に悲観するな。理念が間違ってない失敗なら、同じように生きていれば必ず次は成功するよ。大切なことは失敗した時に、自分の行動を分析してやり方が間違ってなかったかどうか検証することです。」と言っているのです。イチローは凡打を打つことが嫌いなので、最もヒットの出る確率の高い内野安打を狙うのです。イチローがホームランばかりを狙うと年間40本打てると言われています。我々一般人の人生は凡打の連続です。しかし、毎日経験する凡打を打った時に次の成功にどうやってつなげるかが一流とそれ以外の違いとなるのです。良い凡打を打つことにその人なりのヒットを打つヒントがあるのです。
 日本人は元来すべての職種でホームランを打つのは苦手な民族です。こつこつとヒットを重ねて行くのが得意です。今は少し国力が落ちていますが、今の失敗を分析して必ず元気を取り戻すと私は信じています。いつもいつも勝ち続けるのは不可能です。大切なことは納得のいく正しい凡打の延長にヒットやホームランがあるということです。政界でも長く続いた自民党政権が終わって民主党政権に交代しました。これからの日本の将来にとって大切な政権交代でした。勝った民主党は少しおごり気味になっています。負けた自民党は落ち込みすぎです。いずれの政党も勝っておごらず、負けても悔いぬの精神になってもらいたいものです。イチローが日本人の進むべき道をせっかく指し示してくれているのですから。 医者はそもそもホームランを狙ってはいけない職種だと思っています。こつこつと内野安打を打って確実に目の前の命を救うことが要求される仕事です。ホームランを狙いたかったら研究者になれば良く、人の生命に触れてはいけません。人間の体は100年たってもすべてを解明することはできません。ですから、医療現場での判断で真実は分かりません。日進月歩の医学の現在の医療レベルで分かっていることの中で、最も確率の高い内野安打を狙うことが患者さんの為になるということです。凡打しても理念が間違ってないやり方で働き続ければ、イチローのように大打者になれるかもしれません。
 イチローが引退して監督になった時に、多くの選手にはこの理論は理解できないでしょう。人間は成功したい、活躍したい、有名になりたい、お金がほしいなどの今現在の欲の塊ですから。この欲望を抑えて真実の技術を身につけたもののみが実践できる理論だと思います。
 今年は長男は大学受験で長女は高校受験です。長女は問題なさそうですが、長男の進みたい医学部はどの大学も偏差値が高く厳しい受験です。体育祭が終わって9月になってようやくエンジンがかかってきました。受験に失敗してもイチローのように良い凡打になるように進言しています。人生勝つときばかりではありませんから、18歳で初めて負けを知るのも今後の医師という厳しい人生を歩む長男にとって良い経験かなと思っています。もちろんヒットを打ってくれると心の中では祈っていますが。
 私自身も少しでもイチローの考えが理解できるように頑張ります。