院長の独り言
Monologue

2009.1.1

正月の行事

昨年の診療を、自分としては最長の30日の午前中まで行いました。その日は予想どおり、初診の人が多く、インフルエンザやノロウイルス胃腸炎などの感染症の患者さんばかりでした。診療を終えて3時から長男の誕生祝いをするので、母と義父母が集まって来ました。ケーキを食べている時に寒気が軽くして、吐き気がしてきました。病気を患者さんから頂くのは医者の宿命なのですが、私はほとんど重症化したことがなく、医者になって一日も病院の勤務を休んだ事がなく、またノロウイルスでも歳暮代わりに頂いたかなと軽く考えていました。診断はノロウイルスによる胃腸炎で間違ってなかったのですが、重症度を誤診していました。30日の夜からトイレに何回行ったか覚えていません。寒気と腹痛と吐き気が一度にやってきて、布団の中で唸っていました。病気というものはこんなに苦しいものかと患者さんの気持ちが痛いほど分かりました。冷静に自分の症状を分析して、まずどの症状から治療しようかと考え、寒気から取り除く事にしました。麻黄湯を倍量を内服して、いつも患者さんに指導しているように暑いくらいに部屋の温度を上げて、電気毛布の布団にくるまって汗をかきました。すると1時間位で寒気がとれてきました。次に吐き気を治すことにしました。五苓散を倍量を2時間毎に数回内服して、やっと吐き気が軽くなってクリニックまで行く気になり、そこで生まれて初めて自分で針を刺して点滴を行いました。私は点滴は上手な方なのですが、自分で針を刺すのは極めて難しい作業でした。血管を片方の手で固定出来ないために、最後に血管が逃げてしまうのです。やっと成功したと思っていたら、20分位で点滴が漏れてしまい、もう一度刺し治しです。何とか無事に200mlの点滴を終了して、元気も出てきました。自分で点滴の針を刺す時は、血管の横っ面をやや下から刺すと固定されて簡単に行うことができます。最後に下痢は残りましたが、五苓散で何とか便の状態も良くなり、やっとこのホームページに向かうことができました。災難な年越しでしたが 、普段出来ない良い経験を神が与えてくれました。皆さん麻黄湯(又は葛根湯)と五苓散は常備薬に必ず持っておいてください。   さて前置きがかなり長くなってしまいましたが、ここからが本題です。 私には毎年正月に行う行事があります。家族で私だけなのですが、1日の実業団駅伝と2日~3日の箱根駅伝を見ることです。今日の実業団駅伝はゴール前で富士通と日清食品グループと旭化成が三つ巴になって1秒弱の差で富士通が優勝しました。出雲出身の三島慎吾も6区を走り、トヨタ自動車の初の入賞の立役者となりました。とても感動的な近年希に見る好勝負でした。明日はいよいよ箱根駅伝です。朝から気合いを入れて見ようと思っていますが、家族はいつも冷ややかです。「ただ走っているだけなのに、どこが面白い」と毎年の様に言われます。  私なりの駅伝と遺伝子を重ね合わせた独断と偏見の解釈なのですが、ランナーやサポーターやOBや普段世話になっている人の思いを襷(たすき)に込めてをつないで行くのが駅伝なら、今私自身が医師として少なからず社会に貢献しているのは亡き父や母が頑張って走っていたからこそ、その遺伝子をつないだ私は頑張っていけるのであり、私が頑張ることによって息子や娘も襷の代わりに私の遺伝子をつないでいってくれるのだ考えているのです。ですから他人が単純に走っている姿を見て、涙を流すことが出来るのです。正月早々どこにも旅行に行かずにゴルフもしないで、駅伝を見ることによってこの1年を頑張り抜く事ができます。年末にノロウイルスに不覚にもやられてしまったのは、その1年のゴールで体力なくふらふらになっていたからです。  考えてみると私が偉そうに医師として働いているのは、父や母以外にも周りのお世話になっている人々のサポートのお陰です。もっと大胆に言ってしまうと、私の遺伝子をつないでくれた祖先の方々が頑張って走ってくれたお陰で、今私は走っているのです。今日の実業団の駅伝で最終7区につなぐ前に富士通は1秒早く、5区、6区で次のランナーに襷を渡していました。瀬古利彦が良い解説をしていて、1秒でも早くアンカーに襷を渡した富士通はその思いのこもった襷をゴールさせるべく走っているので絶対に有利であると三つ巴の中で語っていました。その通りの結果になり、また泣いてしまいました。  その様に考えて見ると、自分の人生は先祖からつないで来た駅伝の様なもので、一瞬たりとも無駄に怠惰に過ごす事はできません。自分の息子や娘、孫やその先まで頑張って襷をつなぐ義務があります。  しかし、駅伝に故障や風などの障害があってブレーキになる事があるように、時に人生においても失敗はあります。ない方がおかしい位、失敗続きなのが普通です。だけど次の世代に襷をつなぐべく、最後まであきらめない走りをしたいものです。勝つとか負けるとかは問題ではなく、襷(遺伝子)の意味を知ることが大切なのです。そのことが分かれば、いつ事故で死のうが癌の末期になろうが何も怖いものはありません。子供がいない方も確かにあなたの遺伝子は次につながりませんが、1~2代前に戻れば遺伝子はどこかにつながれていますし、あなたがアンカーであると考えれば、何時死んでも今までの先祖の為に最後までかっこよく走ろうと考える事ができます。  駅伝音痴の方も少しは駅伝に興味を持っていただけたでしょうか。  今年もゆっくりでもよいですから、自分なりの走りをしましょう。怠けてもだめだし、オーバーペースでもだめです。時には転んでも体制を整えてからもう一度走って見ましょう。