院長の独り言
Monologue

2008.10.1

甘草という生薬

甘草という生薬があります。エキス漢方130剤中95剤(73%)に入っていて、最も使われている生薬です。これといった強い働きをする訳ではありません。味は名前の通り極めて甘い味で、働きはいろいろな生薬の調和を行ってくれます。葛根湯や風邪薬に入っている麻黄や桂枝は発汗作用や解熱作用があって攻める薬です。サッカーでいうとフォワードです。生姜や大棗(なつめ)は胃薬のようなもので、サッカーでいうとデイフェンスです。では甘草は何になるかというと中村俊輔や中田英寿のようなミッドフィルダーです。チームが攻めている時はフォワードが点を取りやすいようにように助けて、守りの時は点が入らないようにデイフェンダーを助けます。調整能力が優れていて、脇役に徹します。苦味のある生薬を助けて少し甘みを加えてくれます。単独で使うと抗炎症作用がかなりあって、西洋薬では慢性肝炎で強力ミノファーゲンCを注射されている患者さんがいると思いますが、それは甘草そのものです。
 また、副作用もあり甘草に特異体質の人は、水分を体に異常に保持して浮腫が出現して血圧が上昇する人が5%位あります。その人は甘草の入ってない漢方しか飲めません。最も気をつけけてチェックしないといけない漢方の副作用の一つです。甘草が入ってない漢方薬を覚えることは専門医試験の大きな山でもあります。
 私はこの甘草のエキス剤に占める役割がとても好きです。いつもは目立たずに生薬を引き立てることに徹して、必要とされている時に必要とされているだけ役割を演じて、手柄は別の生薬に譲る。しかし、甘草がいないとその漢方薬は調和がとれない。甘草湯という単味の漢方薬もあり、かぜで喉が痛い時に効果があって、単独でもそこそこの働きをするのです。
 実際の人間社会で甘草のような人がどこでも必要とされますが、どこにでも居るわけではありません。みんなに頼りにされていても、すべての人に好かれるわけではなく、毒にも薬もなって概ね(73%)社会の役に立つ人間です。人に頼りにされた時だけ周囲の人を援助して、その人が立ち直った時は、さっさと身を引く。そんな甘草のような脇役人間に私は憧れます。
 なかなか出来ませんが、患者さんに対しても、自分の家族に対してもできれば甘草のように謙虚な存在でいたいものです。力を発揮することは何とか努力して出来ても、謙虚さが私の最も苦手とするところです。手柄を立てた時についつい自慢をしてしまいます。まだまだ修行がたりません。今後の私の大きな課題の一つです。皆さんも考えて見てください。