院長の独り言
Monologue

2008.9.1

星の王子さま

子供の頃、星の王子さまを読んだことがありますか。 その中の王子さまの言葉の一節に「心で見なくちゃ、ものごとは見えないってことさ。かんじんなことは、目に見えないんだよ」という箇所があります。 この言葉は実に味わい深い、意味のある言葉です。現代社会はインターネットやマスコミの情報であふれています。どの情報が真実であるのか分かりません。また、自分自身の生活の中でも、自分に接触してくる人が様々な言葉を発するので、何を信じて良いのか分からなくなります。その時にふとこの一節を思い出すとかなり役に立ちます。人を信じられなくなった時、童心に戻って心の目で見るのです。最初は難しいかもしれません。大人はそれまで何十年も生きている分、邪念が沢山存在して心の目を邪魔します。しかし、心の目で見る努力をしていると、本当に大切な事や大切な人が見えてきます。日々の自分の生活から日本の社会の事まで見えてきます。そうなった時のインターネットやマスコミの情報はかなり役に立ちます。マスコミが自分たちの考えに有利になるように情報をある方向に誘導していることも分かります。朝日新聞と読売新聞の論調の違いが面白いように分かります。
 私は医者なので、初めて患者さんが来院された時に、患者さんの訴えを良く聞きますが、その言葉をそのまま鵜呑みにする訳ではありません。その顔の様子、声のトーン、脈の勢い、明るさなどすべてを五感を研ぎ澄まして診察する努力をしています。通り一遍に聴診器をあてる医者のデモンストレーションは必要な時以外はしません。 星の王子さまの言う様にかんじんなことは、心の目で見ないと分からず、誤診してしまいます。いつも言っていますが、どんなに優秀な医者も神ではないので誤診はします。ですが少なくとも誤診の確率を減らし、誤診をしてもすぐに修正して命を助ける方向に向ける努力をする医者が優秀なのです。その努力が出来なくなった時にはきっぱりと医者をやめる覚悟は出来ているつもりです。
 最近の世の中に真実であることが少なくなったと、嘆いている人もいると思いますが、私はそれは間違いだと思います。過去の歴史を振り返って見てください。東洋文明でも西洋文明でも真実を貫いた人はごく希です。多くの人が世間のしがらみの中で生きて、世の中の大きな流れに流されて生きています。医学の世界でも昔の大学病院の医局や病院の方がもっとひどいことをしていました。今、情報が明らかになっていろいろな世界が明るみに出て来ただけだと思います。  だから、今こそ心の目を鍛えて、肝心なことが見える様になる必要があるのです。私は子供に自分の欠点をすべて見せるようにしています。父親の権威は小さくなりますが、私の遺伝子が半分入っていますので、子供が自身の欠点や長所も理解してきて、将来において複雑な大人の社会で自分の取るべき行動が見えてくると考えているからです。
 どんな小さな事でも結構です。少しづつ心の目で見るトレーニングをしてみてください。人生が2倍楽しくなりますよ。