院長の独り言
Monologue

2013.11.29

古い脳と新しい脳

本日、松江で日本高次機能障害学会という学会を私の師匠の小林祥泰先生が会長として開催されていたので、外来が終了してから手伝いに行っていました。その学会に因んだ私の日頃の考えていることを述べて見たいと思います。
 脳の高次機能とは人間が人間たる所以の脳の機能で、言葉を話したり、人の話を聞いたり、音楽を鑑賞したり、地図を空間的に理解したり、人の嫌がることをしないようにしたり、喧嘩の仲裁をしたりするような動物には出来ないような人間らしいことを考えるような機能です。大脳の外側の大脳皮質という場所が高次機能が働く場所です。類人猿から人間に進化する段階で発達した新しい脳なのです。
 逆に古い脳は脳の中心部に位置していて大脳辺縁系といいます。動物には全て備わっていて、何も教わらなくても自分の敵の姿を認識できたり、欲しいものはすべて自分の物にしたくなり、食欲、性欲、征服欲などの欲望や自分が好きか嫌いかを判断して、その感情のままに行動するような動物的な脳です。
 人間は生後より年齢を重ねて行って、古い大脳辺縁系も発達しますが、特に新しい大脳皮質の方がより発達して、いわゆる大人の行動が取れるようになってくるのです。特に自分自身が50歳を超えて思うことは、多くの人々の行動や性格のデータが頭に入って来て、統計学的にこの場合はどうすれば上手く事が運ぶのか分かってくるようになってきます。逆に言えば、若い頃のような思い切った動物的な行動は取れなくなってきて、自分としては寂しさも覚えるようになります。昔は後先考えずにこうしたのになと思っても、結果が確率的に分かるようになって、とるべき道は一つということになってくるのです。
 人間一人一人でも新しい大脳皮質と古い大脳辺縁系の割合のバランスに違いがあります。歴史に名を残すような人物は間違いなく、大脳辺縁系の力が大きくなっています。そうでないと色々なことに気を使っていては改革などできません。行動に新しい大脳皮質の入り込む隙はなく、自分の大脳辺縁系の指示を曲げることなく突っ走ります。明治維新の西郷隆盛、大久保利通などは若くて血気盛んな時期に行動を起こしています。年を取ってから歴史的な行動を起こしたという話は聞いたことがありません。
 自分自身の人生を振り返っても、20歳、30歳代の行動にはずいぶんと血気盛んで反省すべきところが沢山あります。今は同じ厳しさでも、理論の裏付けを取って負ける戦は我慢するようになって、家内は少し安心しているようですが、自分としては面白くなくなったなと感じることは多々あります。
 タイガー・ウッズや松山英樹のようなゴルフのトッププロが女性問題でマスコミに取り上げられていますが、あのような勝負事に強い天才的なプレーヤーは性的な欲望が特に強いからなのです。
 ライオンの群れでは雄は1匹~2匹で多くの雌を束ねて、雌に狩りをさせてとってきた獲物はまずは自分が食べて、残りを雌や2歳までの子供が食べます。2歳になったら雄の子供は群れから追い出されて、自分で強くなって新しい群れを作るか死ぬかの選択しかありません。
 よく、テレビで若い母親が小さな子どもを同居している男と殺していますが、それは子供を育てるという大脳皮質の働きが悪く、自分の欲望の大脳辺縁系の働きが強いためにあのような行動を起こすのです。年を取って出来た子供は可愛いといいますが、親の大脳皮質の働きが年齢と共に高度になってきてからの子供なのでそうなるのでしょう。
 大脳皮質部分と大脳辺縁系部分の働きのバランスは個人差がありますが、年齢とともに大脳皮質の方が強くなって、感情のコントロールが出来るようになるのが普通ですが、若い頃からあまりにも大脳皮質の抑制が効きすぎているのも問題で、その人は何もクリエイテイブな発想もできず、今までの前例に従って行動するのみのつまらないタイプの人間です。
 つまり、人は犯罪を犯さず、人の迷惑にならない程度に最大に大脳辺縁系を働かせて、いろいろなことに取り組む人が世間の人から頼りにされるのです。若いころからこの事が分かっていれば、多くの人が成功者になれるはずですが、気がついた時には大脳辺縁系の海馬の記憶力も落ちて、上昇志向もなくなって何かをやりぬくパワーは残っていません。
 でもこの点がまた人間の人生は大変面白いということなのです。
一つの対策として若いころに長老のいうことに耳を傾けて、年をとってからは若い人と接触を持つことで、お互いの弱点を補えるかもしれませんね。
参考にしてください。