院長の独り言
Monologue

2013.10.29

前田智徳、宮本慎也の球団一筋

広島カープの前田智徳選手とヤクルトスワローズの宮本慎也選手が今シーズン限りで引退しました。二人共2000本安打をやっと達成しての引退でした。
 前田選手は高校を卒業してカープに入団して、すぐに頭角を表して、イチローに本当の天才は前田選手と言わしめていました。野村監督や落合監督が前田の打撃フォームが理想だから盗むように選手に言うほど素晴らしい素質を持っているみんなが認める天才ですが、練習も人一倍行う努力家でもありました。そんな前田選手の未来は三冠王に最も近い選手として明るいものでしたが、アキレス腱を切ってからは苦労の連続でした。彼の選手生活は怪我との戦いで、晩年2000本安打を達成した時は、まさに満身創痍の状態でした。才能のある選手が多大な努力をしたお陰で、怪我をしながらの2000本安打の達成でした。
 一方、ヤクルトの宮本慎也選手は社会人から野村監督が、打撃はどうでもいいから守備の上手なショートを守れる選手をとってほしいとの要請で、古田捕手と共にヤクルトに入団しました。守備は一流で打撃は三流以下であった選手が、努力を重ねて怪我もなく選手生命を全うして、2000本安打を達成して、WBCではキャプテンも努めました。非常に地味な選手で、野村監督に超一流の二流選手と言わしめたいぶし銀の選手でした。巨人の坂本選手が教えを請えば、ためらうことなく一緒にキャンプを行って教えていました。宮本の引退試合には巨人の選手も一緒になって胴上げを行うほど他球団の選手からも人望のある選手でした。
 この両選手に共通するのは、才能は違うものの努力家であることと、前田はカープ一筋で、宮本はヤクルト一筋であるということです。もし、前田がアキレス腱を切らなくてイチローみたいな選手になっていても、金本や黒田の様に他球団や大リーグには行かずに、カープ一筋で選手生命を全うしたことでしょう。それだけ男気があり、一途な選手だと思います。前田選手も宮本選手も将来の両球団の指導になって、若い選手を鍛えることでしょう。監督になれるかどうかは人間的な度量が必要になってくるので、努力家であればなれるものでもなく、コーチとして働いて選手に慕われて指導力を発揮すれば、おのずと監督への道も開けてくることでしょう。
 世の中で出世する人間に2つのタイプがあります。一つは前田選手や宮本選手のように、一つのところで一途に努力して成功するタイプと自分を高く買ってくれる組織を渡り歩いてドンドンとバージョンアップしていくタイプがあります。
 日本人の古来からの武士道の考え方では、一つのところで腕を磨いて、自分の努力でその組織を大きくするくらいの気概を持っている人が創設者となっています。世渡り上手な人はある程度の成功はしても、大成功はしてないことが多いと思います。一つの組織の欠点を一つ一つ補強しながら、長所を伸ばして行く作業は骨の折れる仕事ではありますが、そこで培った方法論は何事にも代えがたい大きな財産となってくるのであり、その後のどんな取り組みにも通じるものであります。
 我々医師の世界でも、昨今の研修医制度の流行で、大学を卒業してから研修病院を渡り歩いて腕を磨いて、一匹狼的に生きていく医師が多いのでありますが、大物になれる医師はほんの一握りで、多くの渡り鳥生活は根のない不安定な人生になることが多いと思います。どこかのポイントでしっかりと大地に根を張って頑張ってほしいと考えます。
 前田選手や宮本選手は恵まれていて、球団を首になることはありませんでしたが、多くのプロ野球選手は成績が悪くなると首になります。もし、若くして引退になっても一途に努力していた選手は第二の人生でも、そのひたむきさで必ず成功するはずです。
 前田、宮本両選手から学ぶことは、どんなにつまらない仕事でも手を抜かずに一途に努力する人には、神様が必ずご褒美をくれるということです。
 そのことを信じて明日からも頑張りましょう。